教師という仕事は、子どもの成長に大きく関わることができる、大変やりがいのある仕事です。
しかしその反面、責任が重く大きなストレスを抱えやすいので、心身に不調をきたしやすい仕事とも言えます。
私は35年間、小学校の教員を勤めてきました。
これだけ長い間教員を続けてこられたのは、子供たちの成長に関われることにやりがいと喜びを感じていたからに、ほかなりません。
しかし、そんな私でしが、40歳の頃に心身のバランスを崩し、半年間の病休を余儀なくされることになったのです。
この時はとても辛い思いをしましたが、この時に、心理学に興味を抱きました。
幸いその後は再び現場に復帰し、ほぼ定年まで教員を勤めあげることができました。
そして同時に、心理学の学びも、ずっと続けてきました。
学び続ける中で、教師として働く上で、心理学の知見がとても役に立つことを知りました。
そこで、これまで学んできた心理学の知見を、教員の方々に少しでもお伝えしたいと考えました。
私が経験したような、また、今も多くの教員の方々が経験しているような辛い思いをしないで済むように。
シリーズのテーマは、「自分らしくしなやかに、教師として生きるために」です。
現に教員として日々奮闘されている方が読まれても、これから教員を目指そうとしている方が読まれても、少しでもお役に立てるものを書いていきたいと考えています。
シリーズ1回目のテーマは、「心が疲れたときは、立ち止まろう」です。
日々の授業の準備や実施、保護者への対応、多くの校務分掌など、教員にはやるべき業務がたくさんあります。
どれもやらなければならない仕事ですが、気が付くと、自分のことを後回しにしているなんてことはありませんか。
私もそうでしたが、そんな日々を過ごしている先生は、決して少なくないと思います。
「子供たちのために、良い授業をしなければ」「与えられた仕事を、全うしなければ」
そんな思いに、駆られていませんか。
使命を自覚して教師という仕事に打ち込むことは、もちろん素晴らしいことです。
しかし、余りにも頑張り過ぎるのは、良くありません。
自分のことを後回しにしていると、いずれそのツケが回ってきます。
そのためにも、心が疲れているなと感じたら、立ち止まってみましょう。
立ち止まるのにも勇気がいりますが、自分自身の心を守り、教師を続けていくために大切なことなのです。
心が疲れたときの対処法
心理学には、「ストレスコーピング」という考え方があります。
これは、ストレスを感じたときに、そのストレスにうまく対処するための思考や行動のことを言います。
多くの先生は、目の前の問題を何とかして解決しようとして、頑張り過ぎてしまいます。
問題を解決するために頑張ること自体は、とても良いことです。
しかし、頑張り過ぎてしまうと、気がつかないうちにストレスが溜まってしまいます。
そして、この状態を放置して更に頑張ってしまうと、心が疲れ切ってしまいます。
こうならないようにするために、心が疲れたなと感じたら、一度立ち止まってみましょう。
そして、疲れた心をケアしてあげましょう。
ここで役に立つのが、ストレスコーピングです。
ストレスコーピングには色々ありますが、お勧めなのは自分自身の感情を調整する情動焦点型コーピングです。
例えば、
●家族や友人や同僚にストレスの原因や感じていることを話して、気持ちを整理しましょう。
●感動的な映画やドラマを見て、思いっ切り涙を流しましょう。
●大好きな趣味に、心ゆくまで没頭してみましょう。
●大きな声を出して歌ってみましょう。
●美味しいものを食べたり飲んだりしましょう。
●散歩やジョギング、サイクリング、好きなスポーツなどをしましょう。
●旅行に出かけましょう。
●深呼吸をして、心を落ち着かせましょう。
●アロマやマッサージなどで、心身をほぐしましょう。
●ぬるめのお湯に、ゆっくりと浸かりましょう。
●日記やジャーナリングをして、今の気持ちを書き出してみましょう。
どうでしょうか。
今すぐに実践できそうなものが、たくさんありますね。
ストレスが溜まって疲れているなと感じたら、立ち止まって、迷わず実践してみましょう。
また、心理学には、セルフコンパッションという考え方があります。
これは、失敗や困難に直面したときに、大切な友人に接するように自分自身に思いやりの気持ちをもち、優しく接する態度のことを言います。
セルフコンパッションを実践すると、幸福感や楽観性が高まったり、不安や抑うつやストレスが軽減されたり、立ち直る力であるレジリエンスが高まったりします。
教師という仕事には、ここまでやれば十分という線引きがありません。
だから、どこまでも頑張ってしまいがちです。
しかも、たくさんの子供たちを相手にする仕事です。
うまくいかないことがあるのは、当たり前です。
そんな仕事だからこそ、ストレスコーピングやセルフコンパッションを実践して、心を元気にする必要があるのです。
心が疲れているサインに気付きましょう
心が疲れたときは、ストレスコーピングやセルフコンパッションを行うことが大切なことは分かりました。
しかし、ややもすると、心が疲れていることに気が付かないものです。
気が付かないまま頑張り過ぎてしまうと、疲れた心が回復するのに時間がかかってしまいます。
そうならないために、心が疲れているサインを見逃さないことが大切です。
具体的には、次の3つのことを意識すると良いでしょう。
①「何となく元気が出ない」を放置しない。
朝、職員室に入る前に、深呼吸をしてみましょう。
そして、「今日はどんな気分かな?」と、自分自身に問いかけてみましょう。
もし、何となく元気が出ないなと感じたら、心が疲れているサインです。
そんなサインに気付いたら、ストレスコーピングやセルフコンパッションの出番です。
②立ち止まる時間を意識的に持ちましょう。
休憩時間をとることもままならないのが教師という仕事ですが、それでも1日の中でたった5分でいいので、何もしない時間を意識的につくってみましょう。
何もしない時間をつくるだけで、心がリセットされるものです。
そして、心が疲れているなと感じたら、早めに仕事を切り上げて、心を癒す時間を確保しましょう。
③「今できていること」を数えましょう。
できなかったことを数え上げるのではなく、できたことにフォーカスしてみましょう。
例えば、
「今日も笑顔で子供たちと話せた」
「授業で、〇〇さんが素晴らしい発言をした」
「〇〇さんの笑顔が見られた」
「休み時間に子供たちと夢中になって遊んだ」
「会議で自分の考えを発言することができた」
「〇〇先生と話をすることができた」
「学級便りを書き終えた」
こんな感じで、できたことを振り返ってみましょう。
できれば、日記やジャーナリングの形にして、書き留めておくのが良いですね。
これらの日々の小さな達成感を積み上げていくことは、疲れた心を癒してくれます。
自己肯定感や自己効力感も上がりますね。
これ自体が、効果的なコーピングやセルフコンパッションにもなります。
まとめ
立ち止まることは、怠けることではありません。
むしろ、しなやかな心で子供たちと関わり続けていくために、とても大切なことです。
もし今、少しでも疲れているなと感じたら、それは心があなたに「少し休んで」と語りかけているサインかもしれません。
どうか、自分の心の声に耳を傾けてみてください。
そして、疲れた心は、ストレスコーピングやセルフコンパッションを実践して、なるべく早いうちに回復させてあげましょう。
これを意識していけば、きっといつまでも、笑顔で子供たちと関わっていくことができるでしょう。