これからの時代を、自分らしく、しなやかに生きるための6つ目の力として、今回はやり続ける力(グリット)を取り上げたいと思います。
「やり続けていく力」は心理学では、グリット(GRIT)という概念で説明されることがあります。
心理学者のアンジェラ・ダックワース氏が提唱した概念です。
「情熱と忍耐力をもって長期的な目標を追求し、達成する能力」と定義されています。
やり続ける力が優れている人を考えたときに、真っ先に思い浮かんだのはトーマス・エジソンです。
エジソンは誰もが知っている、言わずと知れた発明王ですよね。
エジソンはこんな言葉を遺しています。
「私は失敗したことがない。ただ、1万通りの、うまくいかない方法を見つけただけだ」
私はこの言葉がとても気に入っています。
思い描く夢や目標に向かって精いっぱい取り組んでいても、なかなか思うような結果に結びつかない体験を、私もこれまで数え切れないほどしてきました。
しかし、それでも、途中で投げ出さずに続けてこられたのは、「なかなか思うようにいかないけれど、粘り強くやり続けていれば、きっと結果が出るはずだ」と信じることができたからです。
これからの時代はますます混迷を深め、未来を正確に予測することが難しいと言われています。
そんな時代だからこそ、粘り強くやり続けていく力が必要なのではないでしょうか。
たとえどんな困難が振りかかってきても、決して諦めることなく、自身の夢や目標に向かって歩み続けていくことができる力(グリット)。
それは、「自分らしく、しなやかに生きる」ために、なくてはならない力です。
それでは、やり続ける力(グリット)を高めるにはどうしたら良いのでしょうか。
具体的な例を示しながら、考えてみたいと思います。
小さな成功体験を積み重ねましょう。
「やり続ける力(グリット)」を高めていくには、「できた!」という実感を味わうことが、何よりも大切です。
そしてこの「できた!」という経験は、あればあるほど望ましいのです。
それでは、私の例もまじえながら、お話したいと思います。
①夢中になって自転車の練習に励んだ子どもの頃。
私は小さい頃、夢中になって自転車の練習をしました。
はじめは上手く乗れなくて、何度も倒れたものです。
でも、決して諦めることなく乗り続けたことで、いつの間にか乗れるようになっていました。
これは私にとっては、一つの大きな成功体験でした。
きっと、全身で喜びを噛みしめていたと思います。
小さな子どもはエネルギーに満ちあふれていて、成功体験や失敗体験を繰り返す日々を送っています。
子どものうちは意識していないかもしれませんが、できるようになりたいと思ったことに対して、いつでも全力を傾けて取り組んでいます。
そして、できたときには、喜びを全身で実感しているのです。
それが、小さな子どもが成長していく上での、大きな原動力になっています。
これはまさに、グリット(やり続ける力)がもたらした恩恵と言えます。
②日記が三日坊主で終わってしまうSさんの話。
社会人になって忙しい日々を送る20代後半のSさんは、日記を書こうと意気込んでは就寝前に日記を書くのですが、いつも三日坊主で終わってしまいます。
でも今回は、友人から、「毎日書かなくてもいいし、その日にあった良かったことを3つ書くだけでいいんだよ」
と言われたことがきっかけで、ポジティブ3行日記を書き始めました。
→「友だちといっぱい笑い合って、とても楽しかった」
「久し振りに学生時代の友人から電話がかかってきて、思い出話に花が咲いた」
「青空が気持ちよくて、思わず深呼吸をした」
「夜空を見上げると、星空がきれいだった」
「道端に咲いている可憐な花を見付けて、思わず微笑んでしまった」
「ちょっと苦手な職場の先輩に、自分から声をかけることができた」
「初めて買ったお弁当が、とっても美味しかった」
「夕食のときに、家族とたくさん会話ができた」
こんな感じで良かったことを書き溜めていくうちに、いつの間にか、3行日記を書くことがSさんの毎日の習慣になりました。
因みに「3つの良いこと」は、グリットを高めるのはもちろんですが、ポジティブで前向きな気持ちや自己肯定感などを高めていく上でも大変有効ですので、誰にでもお勧めできます。
※ここでは2つの例しかあげていませんが、日々の生活の中で、小さな成功体験を積む機会は、それこそ無数に存在します。
人の数だけ存在すると言っても、過言ではありません。
大切なことは、自分で決めた小さな目標に向かって、無理なく、ねばり強く続けていくことです。
すると、小さな成功体験が自然と積み重なっていきます。
成功体験は、それがたとえどんなに小さなものであっも、「自己肯定感」「自己効力感」「達成感」などポジティブな感情を、確実に高めてくれます。
これが、やり続ける力(グリット)を高めることにつながっていくのです。
「なぜそれをやるのか」を、きちんと意識しましょう。
目標があっても、その背景にある目的が明確でないと、途中で挫折しやすいものです。
つまり、目的意識をもつことが重要であるということですね。
私は時々、「何で今これをやっているんだっけ」と分からなくなり、自問することがあります。
そんなとき私は、そもそもの目的、場合によってはおおもとの夢やビジョンに、思いをはせるようにしています。
この過程を幾度となく繰り返すことによって、目標の達成に向かってねばり強く取り組んでいく力(グリット)を高めていくことができるのです。
<例えば次のような場合です>
①高校生のAさんは、家族の病気をきっかけに、「将来は医師になって、同じ病気で苦しむ多くの人を救いたい」と決意しました。
ここで、明確なビジョンや目標が定まりました。
→それからは、苦手だった生物や化学の勉強にも、進んで取り組むようになりました。
これはまさに、目的を明確に定めたことでグリットが高まった例と言えます。
②K-POPが大好きな20代のAさんは、韓国で開催される推しのライブに行くことを決意しました。
→どうせならちゃんと韓国語を理解できるようになりたいと考えたAさんは、その日から、独学で韓国語の勉強を始めました。
その結果、半年たった頃には、字幕がなくても大体の内容が分かるようになり、1年後には韓国に行き、念願だった推しのライブを心ゆくまで楽しむことができました。
これも、明確な目的を定めたことでグリットが高まり、目的を達成することができた例と言えます。
周囲の応援やサポートを活用しましょう。
グリットは、自分だけで高めていくには、どうしても限界があります。
困難に遭遇すると、「もう駄目だ!」と諦めそうになってしまうのは、自然なことです。
しかし、こんなときに、もし、周囲の励ましやサポートがあったらどうでしょう。
折れそうだった気持ちを立て直すことが、できるのではないでしょうか。
このように、周囲からの励ましやサポートは、決めたことをやり続けていく上で、とても重要であると言えます。
<例えばこのような場合です>
①初めて駅伝大会に参加した、30代のAさんの場合。
駅伝経験がなかったAさんでしたが、社内の駅伝チームの代表に選ばれてからは、仲間のサポートもあり、練習をやり続けることができました。
そして、駅伝大会本番では、沿道で声援を送ってくれる大勢の人たちや、一緒に走る仲間の存在に励まされ、最後まで走り切り、タスキを次のランナーに渡すことができました。
②資格取得に向けて勉強するも、何度もくじけそうになったAさんの場合。
Aさんは医療に携わる仕事がしたいと決意し、資格取得に向けて勉強を始めました。
仕事をしながらの勉強は思っていた以上にハードで、何度も諦めかけました。
しかし、家族や友人や職場の同僚からの励ましもあり、何とか勉強を続けることができました。
そして、努力のかいもあり、見事に試験に合格して、無事に資格を取得することができました。
これらはいずれも、周囲の温かい励ましが、諦めそうになる気持ちを立て直す力になった例と言えます。
可能ならば、周囲からのサポートを受けたいものです。
とは言え、そのようなサポートを受けられない人もいます。
そんなときは、自分自身を励ましてみてはどうでしょう。
「私はよく頑張っているよ。大丈夫、きっと最後までやり切ることができるから」
と、自分自身に優しく言葉をかけてあげましょう。
その言葉はきっと、心に届き、諦めないで頑張ろうという力になってくれるはずです。
挫折や失敗の経験を学びに変えて、次に生かしていきましょう。
グリット(やり続ける力)を高めるには、失敗や挫折を恐れるのではなく、失敗から学んだことを、次に生かしていくことが重要です。
このサイクルを繰り返していくことで、グリットは高まっていくのです。
そして、その際に必要となる力が、レジリエンス(逆境からの回復力)です。
レジリエンスが弱いと、失敗や挫折から立ち直ることが難しくなります。
立ち直ることができなければ、やり続けていくことはできません。
<ここでは、1つの例として、本番の舞台でせりふが飛んでしまったAさんの場合について、考えてみましょう>
Aさんは大学の演劇部に所属していて、大学祭を目標に、日々の練習に励んできました。
そして迎えた本番。
主役を任されていたAさんは、緊張のあまり頭が真っ白になってしまい、一瞬、せりふが飛んでしまいました。
→その場は周りのサポートもあり何とか切り抜けましたが、Aさんはこの経験から、次のようなことを学びました。
●本番で自信をもって演じることができるように、練習を積み重ねていこう。
●十分にリラックスしてから本番に臨めるように、いくつかの対処法を考えて、それを実践していこう。
●激しい緊張感が襲ってきても、そこから自分を立て直せるように訓練していこう。
その後Aさんは、学んだことをしっかりと生かしながら、自信をもって舞台で演技することができるようになりました。
※いかがでしたでしょうか。
今回は、これからの時代を自分らしく、しなやかに生きるための6つ目の力として、やり続ける力(グリット)を取り上げました。
グリット(やり続ける力)は、一朝一夕で身につけることはできません。
日々の小さな努力を積み重ねていくことで、身につけることができるのです。
そして、グリットはきっと、私たちに大きな恩恵を授けてくれます。
さあ、明日からと言わず今この瞬間から、グリットを高めるための第一歩を踏み出していきましょう。
それはきっと、これからの時代を自分らしく、しなやかに生きるための大きな力となってくれます。
今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。