これからの時代を自分らしく、しなやかに生きるための7つ目の力として、今回はアクセプタンス(受容)を取り上げます。
私は、自分らしくしなやかに生きるために、アクセプタンスはとても大切な力だと考えています。
その理由やアクセプタンスの実践方法などについて、分かりやすくお伝えしますので、ぜひ、最後までお読みください。
自分に厳しすぎる私たちへ
私たちは日々、自分が置かれた状況で、精いっぱい生きています。
皆それぞれに夢やビジョンを胸に抱き、幸せな日常を願いながら、家庭生活を営んだり、仕事に邁進したり、学校で学んだりと、それこそ涙ぐましい努力を重ねながら生きています。
夢や願いが全て叶えばそれに越したことはありませんが、当然そんなことはあり得ません。
思うようにいかずに思い悩むことが、現実の生活の中ではたくさんあります。
いやむしろ、思い悩みながら生きることの方が、遥かに多いでしょう。
家族のことで悩んだり、友だちのことで悩んだり、学校生活のことで悩んだり、自身の進路や就職のことで悩んだり、職場の人間関係で悩んだり、自身の体調不良や病気のことで悩んだり、お金のことで悩んだりと、数え上げれば切りがありません。
そして更に、私たちは過去の出来事に対して後悔したり、先行き不透明な未来に対して不安を抱いたりもしてしまいます。
それでも私たちは、あらゆる悩みや問題に、真摯に取り組もうとします。
まじめに向き合っていこうとします。
心をすり減らしながら、歯を食いしばりながら。
そして、やがて、解決できない悩みはいつしか苦悩となり、場合によっては、うつ病などの精神疾患を発症しかねません。
そうなってしまったら、どうでしょうか。
幸せになるために頑張ってきたことが、報われないどころか、かえってあだになったしまったと言えませんか。
私たちは基本的に、自分に厳しすぎる傾向があるのかもしれません。
これは、人間が本来的にもっている成長したいという欲求なのだと思います。
悩みや問題に向き合って努力を傾けていくことは、もちろん大切です。
私たちはこの世に生を授かった瞬間から、努力の連続で、成長を遂げてきたのですから。
しかし、あらゆる悩みや問題に対処していくことは、当然ながら不可能なことなのです。
そこで、アクセプタンスという考え方が必要になります。
アクセプタンスとは何でしょうか?
それでは、アクセプタンスとはどういうものなのでしょうか。
心理学におけるアクセプタンスとは、不快な思考や感情、または現実の状況を、判断することなくそのまま受け入れる(受容)ことを指します。
この考え方は、それらを排除しようとしたり、抵抗しようとしたりするのではなく、それらの存在を認めて、受け止めて、その上で行動していくことを目指す心理療法ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)において、とくに重視される考え方です。
(ACTにつきましては他のブログでも紹介していますので、そちらをご覧になってください。)
ここで大切なのは、アクセプタンスとは、何もかも諦めて受け入れることとは違うという点です。
諦めるのではなく、いったん受け止めてみるのです。
例えは、学校や職場でいじめにあっている人は、諦めて全てを受け入れないといけないのしょうか。
当然ながら、そんなことはありませんし、あってはならないことです。
そうではなくて、いじめにあっている現実を、一旦受け止めたり、受け入れたりしてみるのです。
そしてその上で、対処できることについては、知恵を絞って精いっぱい対処していくのです。
アメリカの神学者ラインホールド・二ーバーが書いたとされる、「二ーバーの祈り」という有名な言葉がありますので、その一部を紹介したいと思います。
二ーバーの祈り
「変えられるものを変える勇気を、変えられないものを受け入れる冷静さを、そして両者を識別する知恵を与えたまえ」
私はこの言葉がとても気に入っています。
心理療法ACTの考え方に、とても近いのです。
変えられるものとは、何でしょうか。
それは、自分自身の行動です。
これには、自分の思考や感情も含まれます。
これは、誰でも変えていくことができますよね。
自分自身の思考や感情、そして行動は誰にも制御できないはずですから。
では、変えられないものとは、何でしょうか。
それは、自分の力ではどうにもならない事実や状況、他者の考えや性格、過去の出来事などです。
それを端的に言い表したのが、過去と他人は変えられないという言葉ですね。
そして、自分では変えられないものについては、アクセプタンス(受容)していくのです。
二ーバーの祈りにあるように、ただ闇雲に全ての悩みや問題に対処しようとするのではなく、自分が対処できることかどうかを、よく見極めることが大切です。
そして、自分自身が対処できること対しては、勇気を振り絞って、精いっぱい対処していくのです。
精いっぱい努力を傾けていくのです。
アクセプタンスが高いことで得られるメリットは何でしょう?
では、アクセプタンスが高いことで得られるメリットには、どんなものがあるでしょう。
ここではいくつか、あげてみたいと思います。
①心のダメージが小さくてすみます。
アクセプタンスが高い人は、辛くて苦しい出来事や心理的なストレスに見舞われたときに、「これは自分にとって、とても辛くて苦しい経験だよ」と素直に認めて、ネガティブな感情をありのままに受け入れることができます。
その結果、ネガティブな感情を必要以上に引きずることがなくなるので、心のダメージも小さくて済みます。
心のダメージが小さければ、精神疾患などにかかるリスクも小さくなり、心の健康を保つことができます。
②ネガティブな感情に支配されにくくなります。
アクセプタンスが高い人は、不安・後悔・怒り・悲しみといったネガティブな感情を、感じてはいけないものとして抑え込んだり、コントロールしようとしたりするのではなく、「今、私はこう感じているんだな」とありのままに認めて、客観的に眺めることができます。
その結果、ネガティブな感情に支配されることが少なくなり、心の健康を保つことができます。
③自己肯定感が高まります。
アクセプタンスが高い人は、うまくできている自分だけでなく、失敗したり不完全だったりする自分も受け入れて、認めることができます。
そのため、自己肯定感が高まり、心の健康を保つことができます。
④人間関係が良好になります。
アクセプタンスが高い人は、自分の感情や弱さなどを受け入れているため、他人の欠点や弱さに対しても、寛容な態度をとることができるようになります。
そのため、対人関係のトラブルが少なくなり、安定した人間関係を築けるようになり、心の健康を保つことができます。
⑤価値に基づいた行動がとれるようになります。
心理療法ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)では、アクセプタンスを土台として、自分の価値に沿った行動を選ぶことを重視しています。
例えば、「失敗は怖いけれど、挑戦してみたい」「緊張するけど、大切な人に気持ちを伝えたい」というように、ネガティブな感情を受け入れつつも、自分が本当に大切にしたいことに向かって行動できるようになります。
これは、自分らしくしなやかに生きるための大きな力となります。
⑥身体的な不快感とも、うまく付き合えるようになります。
アクセプタンスが高い人は、「身体の痛みや不快感はあるけれど、それと共に生きていこう」と受け入れることができるので、身体の痛みや不快感が軽減されると言われています。
そのため、心の健康を保つことができます。
⑦衝動的な反応が減り、感情のコントロールがしやすくなります。
アクセプタンスが高い人は、怒りや不安などの強いネガティブな感情が生じたときも、その感情を一旦受け止めて、そのような感情から距離をとって眺めることができます。
そのため、感情的になって怒鳴ったり、逃げ出したり、他人を攻撃したりといった衝動的な反応が減り、落ち着いて対処できるようになります。
⑧心理的柔軟性が高まります。
アクセプタンスは、心理的柔軟性の中心的な要素の一つです。
心理的柔軟性とは、「自分の感情や考えをそのまま受け入れつつ、状況に応じて柔軟に行動を選べる心の力」のことを言います。
例えば、「今日はうまくいかなかった。でも、これは自分にとって大切なことだから、明日は別の方法を試してみよう」「緊張しているけれど、どうしても皆に伝えたいことがあるから、勇気を出して発言しよう」「気分が落ち込んでいて誰にも会いたくないけれど、大事な友人だし、話すことで気持ちが軽くなるかもしれない」
このように、ネガティブな感情をなくそうとするのではなく、ネガティブな感情もあるがままに受け入れながら、自分が大切にしたい価値に沿った行動を選べる力が、心理的柔軟性です。
心理的柔軟性は、これからの時代を自分らしくしなやかに生きるために、なくてはならない力だと考えます。
アクセプタンスを高めるには、どうしたら良いでしょう?
ここでは、日常生活の中で実践できる、アクセプタンスを高めるための効果的な方法についてお話します。
①つらさ日記を書いてみましょう。
いわゆるジャーナリングと同じものと言えます。
私たちは、つらい気持ちやモヤモヤを、「感じてはいけない」「考えたら私の負け」と考えて、無理に打ち消そうとすることがあります。
しかし、それらのネガティブな感情を否定せずに、感じているままに紙に書き出してみることで、アクセプタンスは高まっていきます。
具体的には、「つらさ日記」を1日5分で良いので書いてみます。
書き方としては、「今、私は○○を感じている」と、心に浮かぶネガティブな感情や思考を、否定することなく書き綴っていきます。
これは、今感じていることを、そのまま見つめる練習となります。
②自分に向かって、優しく語りかけましょう。
私たちは、失敗したときなど、ややもすると、「何でこんなこともできないんだ」と自分を責めてしまいがちです。
しかし、こんなときこそ、「こんな自分もいていいんだよ」と、優しく自分に声をかけてあげましょう。
例えば、「今は辛いけれど、私はよく頑張ってるよ」「誰にでもミスはあるよ」「仕事でちょっと失敗してしまったけれど、きちんとできた部分もあったんだから、よくやったよ。お疲れ様」と言った感じで、ネガティブな感情に支配されそうなときに、自分の心に優しい言葉をかけてあげましょう。
このような経験を積んでいくことで、アクセプタンスの力は確実に高まっていきます。
③「今日の受け入れメモ」をつけてみましょう。
日々の生活の中の「小さな受け入れ」を記録していきます。
アクセプタンス(受容)の力は、日々の生活の中で、「まあ、いいか」と手放した瞬間に、少しずつ養われていきます。
それを記録して見える化することで、アクセプタンスの力は確実に高まっていきます。
例えば、「電車が大幅に遅延してイライラしたけれど、イヤホンで好きな音楽を聴いていたし、職場には間に合ったし、まあいいか」と言った感じですね。
④自分に点数をつけてみましょう。
これは、完璧じゃなくても、自分を丸ごと受け入れる練習になります。
アクセプタンスとは、できた自分だけでなく、できなかった自分も否定しないで受け入れる力です。
そこで、どんな日であっても、今日の自分に点をつける習慣が役に立ちます。
やり方は、こんな感じです。
1日の終わりに、「今日の自分は何点?」と、自分に問いかけてみます。
そして、「予定していたことはほとんどできなかったけど、早い時間に起きられたから50点」「イライラしてしまったけれど、我慢することができたから60点」といった具合に、自分に点数をつけてあげます。
たとえ小さな進歩であっても、点数をつけてあげましょう。
すると、0点でないことに喜びを感じることができますし、自分の頑張りを客観的にみることができるようになっていきます。
これを習慣化することで、アクセプタンスは着実に高まっていくことが期待できます。
⑤「でも、仕方ないよね」「まあ、いいか」のような言葉を、口ぐせにしましょう。
これは、自分を責めそうになったときに、受け止めるクッションになってくれます。
上手くいかないことがあると私たちはつい、自分や他人や周りを批判したくなります。
そんなときに敢えて、「でも、仕方ないよね」「まあ、いいか」のような言葉を、呟いてみましょう。
そうすることで、自分の感情と少しだけ距離がとれるようになります。
例えば、「今日も子供に、イライラしちゃった」→「でも、仕方ないよね。私も疲れていたし」と言った感じで、呟いていきます。
ただし、これは、感情や行動に対して言い訳をするのではなく、自分を理解しようとするためのフレーズとして使いましょう。
いかがでしたでしょうか。
これからの時代を自分らしく、しなやかに生きるための7つ目の力として今回は、アクセプタンス(受容)を取り上げました。
これからの時代は、ますます混迷を深めていくと思われますし、将来を正確に予想することも難しいでしょう。
そんな時代だからこそ、自身の感情や思考、周りの出来事、はたまた時代の変化を、一旦は受け入れてみましょう。
そして、一旦は受け入れた上で、自分で対処できることと、自分では対処できないことを正しく見極めていくことが大切です。
アクセプタンスは、自分らしくしなやかに生きるためには、どうしても欠かすことができない大切な力です。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
最後に、「二ーバーの祈り」で、締めくくりたいと思います。
「変えられるものを変える勇気を、変えられないものを受け入れる冷静さを、そして両者を識別する知恵を与えたまえ」