周りの視線が気になってしまい、気持ちが重くなったり、今やるべきことに集中できなくなったりした経験はありませんか。
きっと誰にでも、1度や2度はこのような経験があると思います。
私もこれまで、数え切れないほどそのような経験をしてきました。
このような経験は、私たちが社会の中で生きている以上、避けて通ることはできません。
しかし、周りの視線を気にしすぎてしまうと、今やるべきことに集中できなくなってしまい、自らのパフォーマンスを十分に発揮できなくなってしまいます。
このような状態に陥ってしまうと、仕事や学業、人間関係など様々な状況で、思わしくない結果を招いてしまいます。
そして、このような状態が常態化してしまうと、心を病んでしまうことにもなりかねません。
このような状況は、できれば避けたいものですが、社会の中で生きているいじょう、周りの目が気になってしまうのは仕方ありません。
ですが、周りの視線を感じてしまう状況を、少しでも和らげることは可能です。
そこで今回は、心理学の視点から、「人の目を気にしすぎない生き方」について考えてみたいと思います。
人の目が気になってしまうのは、なぜでしょう?
①人の目が気になってしまうのは、私たちが社会的な動物だからです。
私たちの祖先は、個々ではなく群れをなして生活していました。
群れで生活することで、様々な外敵から身を守ることができたからです。
見方を変えれば、群れから追い出されてしまえば、生き延びていくことは難しかったと言えます。
つまり、仲間に受け入れられることが、生存するための大切な条件だったのです。
心理学的にも、所属の欲求(マズローの欲求段階説)として、よく知られています。
そのため、「失敗したらどうしよう」「嫌われてしまったらどうしよう」「自分だけ浮いてしまったらどうしよう」と様々なネガティブな感情を抱いてしまうのは、私たちが祖先から受け継いできた、生き残るための本能とも言えます。
私たちが人の目を気にしてしまう大きな理由は、こんなところからきているのです。
②私たちは意識することなく、他人と自分を比べています。
心理学者のフェスティンガーが提唱した社会的比較理論によると、人は自身の意見や能力を評価する際に、客観的な基準がない場合は他者と比較することで自己評価を行う傾向があります。
SNSで「いいね!」の数が気になるのも、この心理と言えます。
自身の意見や能力をきちんと評価したいという思いは、人が自信をもって生きていく上で大切なものです。
この思いは、自らの向上心にもつながっていますから。
高校や大学などの入学試験や資格試験などを受ける際に、模擬テストを受けることがありますよね。
これは、自身が今もっている力を客観的に確かめることができるので、有意義なものと言えます。
しかし、それを他者との比較で確かめようとするのは、好ましい方法とは言えません。
社会の中で生きているいじょう、他者との比較で自分の位置を確かめようとする心理が働くのは、無理もありません。
とくに若い頃は、そのような傾向が強いのではないでしょうか。
私も若い頃は、無意識のうちに他人と比べてしまうことが、何かにつけてよくありました。
集団の中で、自分が今どの位置にいるのだろうかと気になるのは、とても自然な心理です。
しかし、この思いが強くなりすぎてしまうと、私たちは他人の評価に振り回されやすくなってしまい、様々な心理的な問題が起こってしまいます。
「私はこんな位置にいるんだ。情けないな」「こんなに頑張っているのに、〇〇さんの足元にも及ばないよ」「僕の意見は、全然受け入れてもらえないな」
こんな感じて、ネガティブな思いを膨らませてしまい、自己肯定感もどんどん下がってしまいます。
このような状況が常態化してしまうのは、自身のメンタルにも好ましくありません。
できれば、このような状況は避けたいものです。
③私たちには、公的な自己意識が存在します。
心理学には、公的自己意識という概念があります。
これは、人が自分自身を、他者からどのように見られているかという観点から意識する傾向のことです。
具体的にまとめると、以下のようになります。
〇自身の外見や振る舞いを意識してしまう。
自身の容貌や服装、話し方や態度などが、他人にどう映っているのかが気になってしまいます。
〇社会的な評価が気になる。
周りの人たちに好ましい印象を与えたい、高く評価されたいという思いが強くなってしまいます。
〇他人の視点に注目してしまう。
人からどう見られているかを常に意識して、それによって自分の行動を調整しようとします。
このような公的自己意識は、適度であれば必要なものです。
自身の外見や振る舞いを全く気にしなかったら、社会の中で生きていくことは難しいでしょう。
しかし、公的自己意識が高すぎると、他者からの評価に敏感になりすぎてしまい、集団の中で浮かないように振舞おうとしすぎたり、社会的な規範に過剰に従おうとしたりしてしまいます。
実際には、誰も気にしていないような小さな行動であったとしても、「こんなことしちゃって、恥ずかしいな」「失敗したと思われたんだろうな」「変な人と思われているんだろうな」などと、考えすぎてしまうのです。
この意識が強くなりすぎてしまうと、他人の期待に応えようとすることで、過度なストレスを感じてしまったり、自己肯定感が低下してしまったりします。
心身の健康を保つ意味でも、このような状況は、できれば避けたいものです。
公的自己意識は、社会的比較と通じる部分が多い概念ですが、これも人の目が気になってしまう理由の一つと言えます。
④日本の文化的背景も関係しています。
日本には集団の調和を大切にする文化的背景があります。
「和を以て貴しとなす」という聖徳太子の言葉は、有名ですよね。
日本では、集団の和を乱さないことが評価されやすい傾向があるのです。
そのため、「自分の行動は他人からどう見えるか」「場の雰囲気を壊していないか」を、常に意識する習慣が身に付きやすいのです。
また、日本には「恥の文化」というものがあります。
これも適度であれば、他者との好ましい関係を築く上で有効に働きますが、恥をかくことを極端に嫌ったり、恐れたりしてしまうと、生きづらさにつながってしまいます。
他人にどう見られるかが、行動を規制する大きな基準となってしまうのです。
そのため、社会の中で恥をかかないように、他者の視線を敏感に意識しやすくなってしまいます。
学校教育で協調性や規律が重視されていることも、他人にどう思われるを気にする土台作りに影響していると言えるでしょう。
このように、日本の文化では「集団の和」「恥を避ける」「協調性」といった価値観が根付いていて、それが私たちに、他人の目を気にする感覚を自然と植え付けているのです。
⑤過去の体験も影響しています。
小さい頃から、「いい子ね」「そんなことをしたら恥ずかしいよ」といった評価を繰り返し受けると、私たちの中に、自分の価値は他人の評価で決まるんだという感覚が育ちやすくなります。
学校では、テストの点数や成績、先生の言葉、友だちの反応などから大きな影響を受けるため、次第に人の目を基準に行動するクセが付きやすくなっていきます。
また、否定的な言葉やからかい、あるいはいじめなどの経験があると、「また笑われるのではないか」「嫌われるのではないか」「仲間外れにされるのではないか」といった不安が、自然と強化されてしまいます。
このように自身の過去の体験が、人の目を気にしすぎる原因の一つになっている可能性もあります。
ここまでのことをまとめると、人の目を気にするのは、人の本能、社会的比較、自己意識の強さ、文化や過去の体験といった複数の要因が重なり合って起こる自然な心理だといえます。
ここで問題になるのは、人の目を気にしすぎてしまうということです。
気にしすぎることで、過度なストレスやネガティブな感情が増大してしまい、それが私たちの心に様々な問題を引き起こしてしまいます。
自分らしく伸び伸びとした毎日を送るためにも、人の目を過度に気にしてしまうことは避けたいものです。
では、どうすれば、人の目を気にしすぎないようになれるのでしょうか。
考えてみましょう。
人の目を気にしすぎないようになるために、今日からできること
①人の目が気になってしまうのは自然なことと、受け入れましょう。
まず大切なことは、人の目が気になるのは人間として当たり前のことだと、受け入れることです。
「嫌われたくない」「仲間に受け入れられたい」と感じるのは、私たちの本能であり、自然な感情なのです。
「人の目を気にしてしまう私はダメな人間だ」と自分を責める必要は、少しもありません。
「人間なんだから、人の目を気にするのは自然なことなんだ」と受け入れながら、過ごしていきましょう。
受け入れることで、心が軽くなっていきます。
②自分の価値観を軸に置きましょう。
他人の評価をコントロールすることはできません。
仮にできたとしても、他人の評価に一喜一憂したり、他者の評価に振り回されてしまったりして、自分らしく生きることは難しいでしょう。
しかし、「自分が大切にしたいこと」や「自分はどう生きたいのか」といった自分の価値観は、自分で選ぶことができます。
例えば、「人にどう思われるかより、自分に正直でいたい」「結果や成果より、挑戦する姿勢や努力を大切にしたい」
こんな風に、自分の価値観を軸に置くようにすると、他人の視線や評価よりも、自分の小さな歩みを大切にできるようになっていきます。
そして、それが習慣化してくれば、他人の評価に必要以上に振り回されることがなくなり、自分らしく生きていくことができようになります。
③自分が思っているほど、意外とみんなは自分のことを見ていないと気付きましょう。
心理学には、スポットライト効果という言葉があります。
これは、自分が周囲から注目されていると感じすぎる心理です。
舞台で演技している役者にスポットライトが当たっていることをイメージすると、分かりやすいですよね。
例えば、髪型が決まっていなかったり、ズボンやシャツにしわがあったりすると、周りの人はきっと気付いていると勝手に思い込んでしまったりする心理ですね。
しかし、実際には他人は、そんなに気にしていないものなのです。
私たちは、自分の失敗や欠点をみんなに見られていると思いがちですが、実際には、ほとんどの人は自分のことで精いっぱいなんです。
「あの時の失言を、まだ覚えているかな」と不安になっても、相手は数分後には忘れていることが多いのです。
ですから、自分の身なりや振る舞いを、必要以上に気にすることは、もうやめましょう。
すると、心が軽くなって、自分らしく生きられるようになります。
④小さな実験をしてみましょう。
人の目を気にしすぎるのは良くないことは分かりましたが、とは言え、いきなりこれができるようになるのは難しいですよね。
そこで、日常生活の中で、まずは小さな実験を試みてみましょう。
例えば、こんな感じで、たくさんありますね。
〇コンビニで、これまで食べたことがないお弁当を買ってみる。
〇コンビニで、店員さんに、「ありがとう」と言ってみる。
〇気になるお店に、ひとりで入ってみる。
〇ひとりでカラオケに行ってみる。
〇バスや電車で、「どうぞ」と席をゆずってみる。
〇レストランで、「おすすめはどれですか?」と聞いてみる。
〇思い切って、少し派手な色の服を着てみる。
〇あえて少しゆっくりと歩いて、周囲に合わせすぎないようにする。
〇道端に咲いている花や周りの風景を、立ち止まってゆっくりと眺めてみる。
〇会議で、ひと言だけ発言してみる。
〇職場で質問されたときに、「分かりません」と正直に言ってみる。
〇電車やバスで、あえて外の景色をじっくりと見てみる。
〇エレベーターで沈黙が気まずくても、そのまま自然と立っている。
〇カフェで、ひとりで本を読む。
〇知らない道を、あえて歩いてみる。
〇スーパーでの会計のときに、「袋はいりません」と、はっきり言ってみる。
〇道に迷ったら、スマホではなく、あえて人に道を尋ねてみる。
〇いつもと違う髪型や小物を身に付けて、外出してみる。
どうでしょうか?
このようなことは、日々の生活の中で、いくらでも実践できますよね。
こうした経験を重ねていくと、「あ、意外と大丈夫だった」「思ったほど、注目されていなかった」という実感が増えていき、それが自信につながります。
この自信が、人の目から自由になる大きな力となってくれます。
⑤信頼できる人とのつながりを大切にしましょう。
私たちが人の目を気にする一番の理由は、自分だけ孤立したくないという気持ちからです。
孤立を恐れるのは、人間として当たり前の感情です。
しかし、全ての人から受け入れられる必要はありません。
信頼できると思える人との関係さえ大事にしていれば、それで十分なのです。
たったひとりでも安心できるつながりがあれば、人の視線に心をかき乱さることが少なくなります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
今回は、「人の目」を気にしすぎない生き方について考えてみました。
人の目を気にするのは、人間として当たり前の心理です。
しかし、必要以上に人の目を気にするのは、心の健康を保ちながら自分らしく生きていく上で、決して好ましいことではありません。
他人からどう思われるかではなく、自分はどうありたいのかという自身の価値観に基づいて行動していくことが、とても大切なのです。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。